前世―その3「いざという時に、幼い子の取った行動とは」

内モンゴル東部では、日常においては、困ったときに、「ボルハン(仏さま)・テングリ(天の神さま)・アブラ(abura、助けて)」、あるいは、「テングリ・ボルハン・アブラ」と、人によって、テングリとボルハンの位置を前後にしてしゃべります。

ジョンナ(1944年生、女性)に次のようエピソードを語り聞かせてくれたことがあります。

1999年の夏、1歳(1998年生)の孫息子を抱っこして、道を歩いていました。気づけば、左側と右側に大型トラックが走りすぎるところで、あまり狭かったので、一瞬にして、挟まれるではないかと非常に怖がりました。すると、まだ言葉をしゃべれなかった孫息子が、急に、「アブラ(助けてください)」と叫んだそうです。この瞬間の出来事にびっくりしているとき、迫ってきた両側の大型トラックが、まるで、花が咲くように、離れて行きました。

このエピソードを伺って、当時、思わず、以前、読んだことの内容を思い出しました。

ウノ・ハルヴァは、ブリヤート・シャマンについての次の記録を引用しています。

「ブリヤート人の考えでは、シャマンし始めれば、《先祖の霊》あるいは《気狂い霊》がシャマンの中に入って行く。この話を語っているペトリは、同時に、『《気狂い霊》がシャマンを襲う瞬間、かれは前のめりになって足を若干広げて頭を下げ、大声でアブルルルabrrr!と叫ぶ。』述べている。この身振りこそ、シャマンの体内への霊の侵入を意味するのだとブリヤート人は説明する。ペトリはさらに、シャマンはその時、はたで見ている者の目には、まったく『正体の抜けたように』見えると言っている。霊が脱けるや否や、シャマンは深く吐息をして、外套の端で顔の汗を拭こうと、ずいぶん気分がよくなったような気がするのである」[ハルヴァ 1971:413-414]。

ここでの「アブルルルabrrr」とは、助けてという意味です。

ジョナは、最もびっくりしているのは、まだ言葉をしゃべったことがない幼い孫がはっきりと助けてと叫んだことです。ジョナは、孫は危険を感じた時に、前世の記憶が蘇って、このように叫んだと説明しました。

これと関連して、もう1つ事例を挙げましょう。幼い子はいったん歩き出すと、室内に仏像や仏画を祭る祭壇がなくても、跪いて拝むことが見られます。また、祭壇があれば、祭壇に向かって祈ることがあります。これについて、現地の人々は、次の3通りの解釈を持っています。①前世では、信仰深い人でした。よく拝んでいたので、その記憶によって、自然に拝んでいます。②体内の時に、お母さんが寺院や祭壇の前で拝んでいたのを記憶しているのでそのようにしています。③家族が拝んでいるのを見たことがあるので、歩き出してから自然に真似してやっています。

解釈がいろいろあるが、その中で、1つの考え方は、前世の存在を意識していることです。

参考文献

ウノ・ハルヴァ1971『シャマニズム―アルタイ系諸民族の世界像』

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です